リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「見たこと、あるのかい? 牧野が、ただの雄になったところを」

少しだけ意地の悪い声で、牧野のそんな部分を見たことがあるはずないと決め込んだように、島野はそう明子に尋ねてきた。
明子は言葉に詰まりながら、自分でも通じないだろうなと思うような、見苦しい言い繕いをする。

「グラビア写真見て、鼻の下を伸ばしていたり。お酒の席で下ネタで盛り上がってたり。それくらいは知ってますよ」

鼻先で、ふっと、島野は笑う。
明子は不貞腐れたように、気持ち頬を膨らませて、指遊びをするように重ね合わせた指先を、曲げたり伸ばしたりして、気まずさを紛らせた。
自分でも、この答えは島野の言い指していることとは違うと、そう判っていたけれど、自分が知っている牧野の男の部分など、これが限界なのだからしょうがないじゃないと、半ば拗ねるしかなかった。

「それは、牧野の男の子の部分な」

誰にでも見せる、普通のやんちゃ坊主の顔だよ。
島野も、敢えてそう言葉にして、それは不正解だと明子に教える。
島野の言葉に、そういえば、君島も同じ言葉を口にしていたと、そんなことを明子は考えた。
そういうことを考えて、生々しい想像をしないようにしていないと、いたたまれない気持ちになって、明子は顔も上げていられなくなりそうだった。
基本的に、この手の話自体、明子は決して得意ではない。
職場やお酒の席で、笑い混じりの軽い下ネタトークくらいは、余裕をみせて、一緒に笑いながら付き合うけれど、それとて自分から好んで加わってしたい話ではない。
島野の言葉の真意を知るのが、明子はいやだった。
生々しい、その手の話を聞くのは好きではない。
それが牧野の話なら、尚更だった。
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