リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「いいんですか、そんな話しして」

散々な目にあった仕返しとばかりに、明子はぷんと尖った声で、島野にそう言い立てる。

「牧野さんが隠していること、勝手に話して」
「言ってみるかい。牧野に。島野さんからこんなこと聞きましたって」

明子のそんな些細な反撃などにはまったく動じることなく、むしろ面白がるように島野はそう明子を問い詰める。

「いいかもしれないな、それも。今度、牧野の車に乗ったときに、言ってみるといい。まあ、多分、私は牧野にぶっ飛ばされるだろうけど、あんがい、牧野も吹っ切れて、キミのことを、強引にでもホテルにでも連れ込めるかもな」
「やめてください」

結果的に、ますます自分の顔が赤らむことになり、明子は悔しそうに口を尖らせる。
明子が、決して、今夜のことを牧野に告げることができないと判っていて、島野はこんな話をしたのだということが、ようやく明子にも判った。
明子さえ口を噤んでいれば、今夜のことが牧野に知られることはない。
どう足掻いても勝てそうにない相手に、明子は口を閉ざすしかなかった。

「さて。小杉くんが、きれいになった理由を聞こうかな?」

痩せたよね? 仕事もやる気満々だし。
まだ、真っ赤なままの頬を突っついて、なにがあったのかなと言うその顔は、いたずらを思いついた子どもの笑顔だった。
少しだけ痩せたことにまで気づいているとは、女たらしは伊達ではないなと、明子は肩をすくめて、笑った。
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