リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
のらりくらりと、ぎこちなさは残り続けたものの、不穏な気配をきれいに消した島野と、たわいない話をしながらの帰路。
スーパーマーケットと自宅アパートの間にある小さな公園の前で、島野は車を止めた。
まだ、外は雨だった。
ここからは、歩いていけということことかなと、明子はシートベルトに手かけて、その手を島野が止めた。
なんだろうと思う間もなく、すばやく、自分のシートベルトを外した島野が、明子に覆いかぶさってきた。

「やっ いやっ」

突然のことに悲鳴を上げ、明子は島野の肩に手を突くようにして、その体を押し返そうとするが、どうにもならなかった。
決して筋骨隆々の逞しい体ではないが、それでも男の体と力に、敵うはずがなかった。

「もう、悪ふざけ、やめてくださいっ」

島野さんっ いやっ
叫ぶように懇願する明子の声など、まったく聞こえていないかのように、島野は左手を明子の腰に回し、右手で明子の顎を捕らえた。
妖しい笑みを浮かべた顔で、明子を上から見据えていた。

「キス、しようか?」

挨拶かのように、軽い口調でそんなことを言う島野に、明子は「ふざけないでくださいっ」と声を張る。
気丈に振る舞ってはいるけれど、その声は微かに震えている。
つい、油断した。
そんな自分にも腹が立ち、情けなかった。
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