リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「キス、しよ」
「いやです」
「大丈夫。キスだけだよ」
「いやです」
「もしかして。前の彼と別れてから、こういうこと、全然ないのかな?」

耳元に唇を寄せて、明子の体の感触を楽しむように体を押し付けてくる島野に、明子は泣きだしそうになる。
腰に回る手が、妖しく蠢く。

「いや」

小さな、それでも必至な、明子の哀願すら楽しんでいるかのように、島野は明子の耳元に唇を落とし、その付け根を軽く吸い上げる。

「ひゃ、んっ」
「可愛い声だな」
「いや」
「小杉くん。遊びのセックスなんて、したことないだろう」

島野のその問いかけに、返す言葉が思いつかず、明子は沈黙してしまう。

「その様子じゃ、セックスどころか、キスもないな。恋人でもない男と、キスもしてことないんだ?」
「誰とでも、簡単にするようなものじゃ」
「そう? キスが、心を動かすこともあるんだよ。自分の気持ちに、気付かせてくれるキスもあるんだよ」

牧野と。キスをしてごらん。
甘い、甘い、その囁きに、明子は体は熱を帯びてくる。

「そのときの、予行練習だよ。ほら」

島野の唇が額に落ちる。
明子はぎゅっと目を閉じて、体を固く強張らせる。
明子のそんな抵抗など、容易く封じ込めて。
右の瞼に。
左の瞼に。
左の頬に。
右の頬に。
島野の唇が落ちる。
そのたびに、明子は体を震わせ竦ませた。
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