リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「こっちの仕事に興味が出て、続けてみたい気持ちがあるなら、残れるようにしてやるって。笹原さんに言われたんだろう」
「なんで、それ」

明子は目を見開いて、驚きを露わにした。

「笹原さんから、聞いたらしいよ」

だから、牧野は知ってるよ。そのこと。
その言葉に、明子の思考の全てが急停止する。


(だって……)
(あれは……)


落ち着きなく動き回る明子の瞳を見て、島野はまた明子の額に唇を落とした。

「大丈夫。落ち着いて」

低く優しい声が、明子の心のざわめきを沈めていく。

不思議な人。

明子はそう思った。
危険極まりないはずなのに、抱きしめられ、耳元でこんなふうに囁かれると、目がとろんと潤み、その腕にすがって、甘えてしまいたくなってくる。

「もともとは、営業を希望して入社したんだって。なら、断る理由はないよな。でも、牧野は、それを知って、キミは自分から逃げたと、そう思っているんだ」

その言葉が、明子の胸を刺した。


(そうよ、牧野さん)
(私、逃げたの)
(苦しくて、辛くて、逃げたの)
(あなたから……)
(逃げたの)


知られたくなかった。
逃げたことを。
牧野にだけは。
知られたくなかった。
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