リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「キミが逃げ出して。やっと、あいつも、気が付いたみたいだな。今までなら、耐えきれなくなって逃げ出されたところで、それならそれでいいと簡単に諦められていたけれど、キミは違うって。子どものころの痛みを、思い出してしまったみたいだ。自分を、罵って責め詰りたくなるくらい、悔やんだらしい。だから、今度は慎重なんだよ、あいつ」

車に乗せても、こんなふうに襲えないくらい、慎重なんだ。
そんな不埒な言葉に、明子は「もう、退いてください」と、島野を窘めた。

「車に乗せたくらいで、普通、こんなこと」
「牧野はするよ。車に乗せた女は、間違いなく抱いてきたよ、あいつは」

きっぱりと断言する島野に、明子は目を伏せるようにして、押し黙った。
そんな牧野など、想像したくもなかった。

「そんな気配を、みせることもできないくらい、キミに対しては臆病で、慎重になってるんだよ」

今の牧野はね。
目を伏せた明子の耳元に、また唇を落としながら、島野はそう言い諭す。
その熱に、明子の体がピクリと反応する。

「牧野は……、情操教育の段階で、いろいろと問題があってね。ちょっと、面倒なんだよ」

島野の言葉に被さるように、君島の言葉が明子の耳に蘇った。


-子どものころに、いろいろな。


君島も同じ事を言っていたと、明子は顔を曇らせた。


(なにが、あったの?)
(牧野さん?)
(私には、強くて、明るくて、真っ直ぐな、そんな姿しか見せてくれなかったね)


沈みそうな気持ちで、明子はぼつりと呟いた。
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