リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
体が温まり、ほどよく温かい湯の中で、明子はまどろむ様に目を閉じた。
こうしていると、すべてが夢の中の出来事のように思えてくる。
でも、夢ではない。
もしも、あんな夢を見たのだとしたら……


(そのほうが、よほど怖いわ)


少しずつ、明子な中に冷静が戻り始める。
島野に、言葉巧みに煽られて、丸め込まれて、牧野を餌に遊ばれた。
そんな気分になってきた。


(なにが、予行練習よ。もう)
(女たらしのロクデナシ)


思い出すだけで、その羞恥に頬が赤くなってくる。
唇に触れるだけで、ぞわりとした感覚が、また体の中に沸き起こった。


(ああやって、雰囲気を作って、女の子を堕とすんだ)
(キスだけで、女の子を囚えてしまうんだ)
(あんなふうに、女の子を蕩かしてしまうんだ)


ふうっと、明子は内にこもった熱を吐き出すように、息を吐いた。

「ずるい人」

明子は、そう口にして呟いた。

牧野の名を使って。
明子を捕らえ、抗いを封じて、楽しんだ。
飲まれて、流されたのは自分だけれど。
そのきっかけを与えたのも、自分の不用意な一言だけれど。
でも、島野をずるいと詰りたくなった。
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