リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
‐ごちそうさま。


含み笑いが混じるその声に、明子はようやく、甘いその呪縛から解き放たれた。
濡れた瞳で島野を見つめ……。
やがて、恥ずかしそうに両手で顔を隠した。


また蘇ってきた、甘い疼きをもたらす記憶に、明子は頬を叩いた。
のぼせてしまいそうだった。


(いじわる)
(島野さんの、いじわる)


キスだけで、あんなふうに煽られて、感じて、溺れてしまったことなど、初めてだった。
キスそのものも、明子はそれほど経験しているわけではない。
お堅い貞操観念と、島野に笑われたとおり。
たとえ、軽いキスであっても、遊び半分ですることなど、今までの明子にはできなかった。


牧野にも、あんな一面があるのか、そう考えるだけで頭がぼぅっとしてしまう。


(明日から、どんな顔して会えばいいのかな)
(牧野さんと近づくだけで、顔が火照りそう)


牧野だけではなかった。
牧野といる自分を見つめている、小林や君島の視線にすら、気づいたら顔を赤らめてしまいそうだった。
どんな目で、自分を見ているのか。
それを考えるだけで、気恥ずかしくなってくる。


(やっぱり)
(島野さん、キライ)
(いじわるっ)
(女の敵っ)


油断した自分も悪いけど。
流されて、許してしまった自分も悪いけど。
でも、このいたたまれない気持ちは、島野のせいだと、明子は頬を膨らませた。
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