リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
明子の机より、キャビネット一つ分は確実に広い机にも関わらず、物が置かれていない場所の面積はとんでもなく狭い。


(そろそろ、お片づけしないとダメそうね、この机は)
(ホントにもう、困った人なんだから)
(また、ゲンコツをゴンと落とされちゃうわよ、これじゃ)


机の約三分の一を占拠するほどに積んである書類の山に、がくりと、芝居ががった動作で項垂れて、明子はその整理を始めた。

紙の山を崩して、『今、必要なもの』『まだ、必要になる可能性があるもの』そして『もう、見ることはないもの』その三つに書類を分けていく。
加えて『もう、見ることはない』は、『シュレッダーするもの』と『ファイリングして、当面、残して置くもの』に分ける。
不思議なことに、その判断に迷うことはなかった。
昔から、なんとなく、それが判った。
だから、よく牧野に頼まれていた。


『小杉、机、頼む』


新人のころ。
机の上をどうにかしろと君島などにどやされたものの、どうあっても片付けられなくて途方に暮れると、いつもそう言って、牧野は明子に書類の山を片付けさせていた。
文句を言いながらも、明子もそれに応じていた。

けれど、再びシステム部に戻ってきてからは、したことがなかった。
雪崩そうな山をきちんと積み上げ直して、机の上をキレイに拭くことはあっても、書類そのものを、昔のように仕分けて片付けたことはなかった。
気にはなったけれど、積み直すだけで放っておいた。
昔のように踏み込まないと決めていたから、目を瞑った。
牧野も昔のように、明子に書類の整理を頼むこともなかった。
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