リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
久しぶりに、牧野ルールで積み上げられた、膨大な書類の山を整理をして、明子は驚いた。
資料にさっくりと目を通せば、牧野が関わっている仕事のすべてを把握していなくても、区分けができた。
昔と同じように。
迷いもなく。
それが判った。
なぜか、それが楽しくて、嬉しくて。
また、ふんふんと、鼻歌を歌っていた。

そうやって、半分ほど片付けたとき、突然、甲高い声が明子に浴びせられた。

「なにをしてるのよっ」

朝から勘弁してと、明子はその声にぐったりとする。
いつの間にか、牧野の机の上を片付けている明子に目を吊り上げている美咲が、部屋の中にいた。

「おはようございます」

一応、挨拶の言葉をかけた。しかし、それに応じた挨拶はなかった。
後から取り巻きたちが来るのかと思ったが、そうではないらしい。
珍しく、美咲一人だった。
オフホワイトのふんわりとした生地に、柔らかな色味のオレンジやピンクで花模様が描かれている膝丈のワンピースは、胸元にたっぴりのレースがあしらわれ、茶の細いベルトがアクセントになっていた。
ピンヒールのミュール風の靴も茶色だった。
カールがキレイにかかった髪は、人形のようだった。


(なるほどね。定刻には席について、ファッションショーは継続していくって方向で、妥協したわけね)


きりきりと、目をつり上げている様子など気にもならないように、明子はそんなことを暢気にも考えていた。

「牧野さんの机の上、勝手にいじって」
「勝手じゃないし」
「そんなふうにバラバラにしたら、どこになにがあるか判らなくなるでしょっ」
「判るようにしてるし」

きゃんきゃんと喚きたてる美咲に、ボソボソと明子は答える。
さっきまでの楽しい気分は、一気にどこかに吹き飛び、誰かー、助けてーと、明子は心の中で叫んだ。


(もう、面倒ごとはイヤ)
(というか、出てくるの、早っ)
(昨日、相当、絞られたのね)


やいのやいのと言い立てている美咲に、片付けるのはやめようかなあと、解体作業に取り掛かってしまった山を見ながら、明子はため息をついた。
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