リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「ウチのほうは雨だけでした」
「そっか。こっちはこんな時期に、よもやのカミナリ様が大暴れでな」

サーバーが落ちた。
あまりにも、あっさりと告げられた言葉に、明子もあっさりと、へえっと答え、次の瞬間、凍りついた。
黙々と仕分け作業を続けていたがその手も、ピタリと止まった。

時間にして、数秒。
瞬きも忘れて固まったのち、「ええー?!」と、さすがの明子も目を剥き仰け反った。

「だって、ウチ、UPS付けてあるじゃないですか?」

なのに、どうしてという至極もっとも明子の質疑に、その疑問は仰るとおり、ごもっともと言うように、小林も頷いた。

このあたりは雷が多い。
高校まで四国で暮らしていたという渡辺などは、こちらに来て初めて、稲光はギザギサ模様だけではないということを知り、その多種多様ぶりに驚きつつも、魅入ってしまったという。
そして、その雷による停電も、大変迷惑なことに珍しくない。
そけゆえ、UPSと呼ばれる、雷サージ保護機能付きの無停電電源装置が、この会社のサーバーには付けられている。
サーバーだけではない。
バッテリーを内蔵していないディスクトップ型のクライアントマシンも、基本的にはUPS付きタップコードから電源はとっている。だからこそ、雷でサーバーが落ちたという理由が、明子には判らなかった。

「なんかなあ、一台、故障していたらしい」

自分が巻き込まれた災難にも関わらず、対岸の火事を眺めていたような小林の暢気の口調に、明子もはぁっとのんきに頷くしかなかった。
そんな小林が手にしていた紙のカップは、牧野の机にあるものと同じものだった。
のほほんとした口振りとは相反した、くたびれた様子で、小林はコーヒーを啜っていた。
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