リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「コーヒー屋さん、行ったんですね」
「ん? これか」

明子の視線に、小林はコーヒーショップのロゴが入った紙コップを掲げて見せた。

「これは、牧野課長が、いつものところで買ってきてくれてやつな」
「サンドイッチ、食べます?」

お昼ご飯に作ってきたんですけど、それでよければ机の中に。
そう言う明子に「お前さんの昼飯を食ったりしたら、食いしん坊の大男がうるさくてしょうがねえよ」と、小林は苦笑する。

「飯は君島課長のとこで貰った。さすがに、家まで帰る気力なかった」

小林の自宅は県外にある。五年前に建てた家だった。
朝の通勤ラッシュの時刻にぶつかると、会社まで来るのに、車で二時間ほどかかるらしい。

小林家は、夫と妻と三人の子どもという、今時にしてはそこそこに大人数な家族構成だった。
男の子二人と、女の子が一人。
長男は小学四年になる。
家を建てて引っ越すなら、長男が小学校に入る前のほうがいいなと話し始めていた矢先、三人目を妊娠したということもあり、一大決心をしたらしい。
家を建てるなら、子ども三人それぞれに部屋を作ってやらないとダメだなと思う一方、妻からは小さくていいから庭が欲しいと言われ、その条件を満たせる、そこそこの広さがあり利便のいい宅地を探したら、最終的には県外のその地になったのだと小林は言っていた。


-小学校も中学校も近いしな。駅にも歩いていける距離だ。
-車通勤にはちょいと、時間がかかる場所だけどな。
-家族みんなで、わいわい楽しく暮らせるんだ、不満はないよ。


目を細くして、幸せそうに笑っていた小林を、明子は思い出した。
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