リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
牧野だけならともかく、君島や小林まで一緒になってのその言い様に、それはないでしょうというのが、明子の正直な心情だった。
なんだかんだと言いながら、牧野に一番甘いのはこの人たちだわと、昨夜、島野が言った「かぐや姫ごっこ」なる言葉を思い出し、なるほどねと忍び笑いを零した。

「なんだよ?」

そのかすかな笑い声に、牧野の流し目が明子を捉える。
妙な婀娜っぽさが滲むその顔に、明子はドキリとしながら、なんでもないですよぅっと舌を出した。

「笑ったろ」
「笑いましたよ」
「なんだよ」
「教えません」
「なんだっ」

笑われたことがよほど気に入らなかったのか、明子のブラウスのボウタイを掴むと、くいくいと引張り続けた。

「ちょっと、やっ やめてくださいってっ やだっ」
「牧野。それはやめろ」

さすがに君島もそれは目に余ると思ったらしい。
いたずらの過ぎる子どもを叱る先生のように、君島は牧野を嗜めた。
その声に、牧野はしかたないという顔で諦めて、手を離した。

「もう。どうして、こういうことするんですか」

ふんと、口をへの字に曲げてふて腐れている牧野を叱りながら、ほどけてしまったリボンを結びを直していると、茶色のツータックパンツのポケットに入れてある携帯電話が鳴った。
メール用の着信音だった。
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