リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
なにかを探るように、目を細くして明子を見ていた小林は、明子のその表情に、まあいいかと諦めたように小さく首を振りながら、君島に向かい訴えた。

「なあ。ちゃんと檻に入れとけよ、あれ」
「すまんな。ときどき、勝手に抜け出しちまうんだよな」
「ウチの娘に、手なんか出しやがったら、ただじゃおかねえからな」
「安心しろ。そんなことをした日には、まずは俺が鉄拳制裁だ」

二人のそんな不穏なやりとりに「小杉も、気をつけまーす」と明るく答えながら、なにがあっても昨夜のことは秘密にしなければと、明子は胸の内で改めて誓う。
ファイリングを終え、Z式ファイルをしゃがみ込んで仕舞っていると、上から視線を感じて明子は顔をあげた。
思いがけず近い場所にあった牧野のキレイな顔に、一瞬、明子は驚き固まった。

「な、なんですか」
「ん? いや」

牧野が珍しく目を泳がせ、言いよどんだ。

「なんです?」
「あー。珍しいなと思ってさ。ピンク」

カーディガンの袖を抓んで、唐突にそんなことを言い出し牧野に、なにを言い出したのかと呆れながら明子は立ち上がった。

「いつも、モノクロ写真みたいだろうが」
「失礼な」
「白とクロとねずみ色ばっかだろ」
「ねずみ色って。ひどいっ」
「事実じゃねえか。ねずみちゃんだろ、いつも」
「ねずみじゃないですっ」
「今日はピンクの子豚さんだな」
「牧野」「女の子にそれはなしだ」

明子が「ひどいっ」と喚くより先に、君島と小林が牧野を窘める。
しかし、牧野はなんで咎められたのか判らないという顔で、君島と小林を交互に眺め見ていた。
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