リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「なしって、なんですか?」
「子豚ってな」
「かわいいじゃないですか」

なにが悪いんだと言わんばかりに反論する牧野に、小林は「お前はなあ」と呆れながら、教え諭すように牧野に言い聞かせた。

「子豚が、かわいいかどうかの議論は置いといてだな。子豚と言われて喜ぶ女の子はいないんだ。世の中のほとんどの女の子は、子豚と言われたら怒る。覚えとけ」
「そうなんですか?」

不思議そうに首を傾げている牧野を見て、怒りよりも呆れが勝り、明子は唖然とした顔で牧野を見た。


(昔から、どっか、感覚がヘンなとこあったけど)
(もしかして、かわいいっていう形容詞さえ付ければ、子豚も誉め言葉になるって、本気で思ってるんだ、牧野さんって)


ある意味、目が点になるほどの驚きを覚えつつ。


-情操教育の段階で問題があってね。


昨夜の島野の言葉が、耳に蘇った。
いったい、幼少の牧野の身になにがあったのだろうと気になりだした明子は、小林の言葉で我に返った。

「小杉、気にすんな」
「はーい」
「でも、たしかに、小杉がピンクは珍しいな。どした?」
「どしたって。小林さんまで、そんなことを言わなくても」
「最近、着るもんとか変わってきたよな」
「だって、牧野さんがうるさいんです」
「俺がなんだよ?」

訝しがる牧野に、明子は地団駄を踏む思いで牧野を責めた。

「牧野さんが、身なりどうにかしろって言ったんじゃないですかっ」

だから早起きして頑張ってるのにっ
口をいーっと横に開いて顔に皺を作った明子は、雑巾を手に取ると、ぷんすかと怒ったように給湯室へと歩き出した。

部屋を出る寸前。
明子がちらりと中を見ると、牧野はなぜか少し照れたような顔で鼻を頭を掻いて、君島と小林は肩を揺らして笑っていた。

おはようございますと言う、元気な男の子の声が、遠くから聞こえてきた。
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