リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「はあ?!」

思わず上がった明子の素っ頓狂な声に、小林たちが明子に目を向けた。

「そういうことで」
「なんで、そういう、無理を」
「うるせ。決定だ。つべこべ言うな」

なんだと目を光らせている小林の様子に、牧野は「なんでもないですよ」とこぼし「そういうことだから、用意をしておけ」と明子に言い捨てて、一方的に話を打ち切った。
うんざりとしている明子の様子に、またやっかいな仕事の話だろうと勝手に予測したらしい木村たちは、お気の毒さまですという顔で明子を眺めていた。


(ホントに、行くの? 高尾山)
(まあ、平服でも歩ける山だけど)
(でもさ、行くからにはね、やっぱり、ちゃんと歩く格好したいし)
(あっちも、こっちも、歩きたいし)
(あー、おそば、食べたいなあ)
(天狗さんのお饅頭も)
(健康手帳、あったかな?)
(いや、待って)
(そもそも三時って……、何事よ?)
(寒いじゃない)
(そんな時間、ぜったい、寒いじゃない)
(うきゃー)


目がきゅうっと、中央に寄っていくような気分で頭を抱えていると、君島から声を掛けられた。

「悪い。ロッカールームに原田がいるようなら、呼んできてくれないか?」

その言葉で時計を見た明子は、愕然となった。
すでに、九時は過ぎていた。
君島が待っていることを判っていて、まだ出てこないのかと、明子はただただ驚き「はい、判りました」と二つ返事で答えながら、ロッカールームへと走り出した。
< 691 / 1,120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop