リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
姿を見せた明子を、忌々しそうに睨みつけてくる者もいれば、腹ただしげに鼻を鳴らしながらそっぽ向く者もいた。
そんな者たちにも、泣いている美咲にも、明子は目もくれずに幸恵を見た。

「原田さん。今、呼んだの、聞こえなかった?」
「よその課の主任なんかに、命令」
「呼んできて欲しいと、君島課長に頼まれて来ました。課長が、ここに乗り込んでくるわけいかないでしょ。だから、呼んできてほしいと頼まれました。よその課の主任ですけどね」

幸恵にみなまで言わせず、明子はきっぱりと告げた。

「今日、九時には会社を出ると言われてるわよね? とっくにその時間は過ぎてるのよ。安藤くんだって、もう支度は終えて待っているのに。いつまでもなにをしてるの、ここで」
「小杉さんが、井上さんを泣かせたから」

自分のせいではないとでも言いたげな幸恵を、明子はやや口調をきつくして咎めた。

「それと、あなたが仕事を放棄していることと、なんの関係があるの? 井上さんが泣いていると、私はお仕事できませんって?」

ふざけるんじゃないわよ。
頭に血が上っていく思いを堪えながら、明子は幸恵を見据えて告げた。


(自分勝手な理由で泣いているだけのそんな子どもに、付き合っていてどうするの?)


吐いて出そうになっている喉の奥で絡まっているそんな言葉を飲み込んで、明子は幸恵を諭した。

「そんなこと、なんの理由にもならないことくらい、判るでしょ。いい加減にしなさいよ。ここは井上さんのお家でも、仲良しが集まって遊ぶ場所でもありません。仕事をする場所です。約束の時間も守らないで、上司を待たせて」
「あんたが、とやかく言う筋合いないでしょっ 偉そうにっ」

よその部の名前も判らない女子社員が、そう明子に食って掛かった。
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