リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「あんたのせいで、昨日、大変だったのよっ」
「余計なこと、しないでよねっ」


彼女たちが、大変だったと言っているものがなんなのか、それは簡単に想像ができた。
その想像通りなら、そんなものはただの八つ当たりだ。だから、明子はそんな言葉は聞き流した。
相手にしてもしょうがないと切り捨てて、ただただ、幸恵を真っ直ぐに見据え続けた。

「早く、行きなさい」

襟と袖口が黒のベアロ生地になっている、膝上10cmくらいの丈の白ニットのワンピースを着て、黒の厚底靴に膝上まである黒のソックスを履いている。
幸恵のそのいでたちは、どう見てもビジネスシーンにはそぐわないものだった。
そんな服装で客先に向かったら、お客様から何か言われやしないかと不安になったが、それでもそんなことで仕事を放棄させるわけにはいかない。
ましてや、美咲のために放棄させるなど、言語道断だ。

明子はもう一度、きつい口調で君島の元に行くよう幸恵を促した。
けれど、明子の指図など受けたくないと言わんばかりの態度で、幸恵は動こうとしなかった。

「原田さん」
「小杉さんのせいですっ 全部っ うまくいってたのにっ 小杉さんが、みんな引っ掻き回してっ」
「なにが? なにが、うまくいっていたの? 原田さん。野木主任が残念がっているわよ。最近の仕事、テスト甘くてバグが多いって」
「そうやって、二言目には仕事仕事仕事って。そんなことだから、男に捨てられるんですよっ かわいげがないってっ」
「頂いてるお給料に見合うだけの仕事をして、その仕事を好きでいることが可愛げないっていうなら、なくていいわよ、可愛げなんて」
「牧野課長も沼田さんも、可哀相っ 小杉さんみたいな人にまとわりつかれてっ ただの行き遅れのおばさんのくせにっ 色目使って誑かして、最低っ」

そう吐き捨てるように明子に言い捨てると、幸恵も堰を切ったように泣き出した。
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