リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
幸恵が判りません、できませんと、明子の傍らに立って言い放つたび、周囲から零れるため息は、だんだんと疲労と苛立ちの色が濃くなってきていた。
小林の言うとおりだ。
今のままなら、どこかで幸恵に見切りをつけないと、みなが疲れてしまうだろう。

明子は、ひとつ、重いため息を零した。

人を一人、見切りをつけて捨てるには、相応の覚悟がいる。
心を決めてかからないと、見せた涙などに、うっかり絆され引きずられてしまう。それを繰り返したら、いつまでも振り回され続けてしまうことになる。
幸恵が立ち直ってくれることを、明子は手を合わせる思いで祈った。

「俺、七時ごろにはあがるぞ?」
「はい。大丈夫です」

早く帰って休んでくださいと笑う明子に、小林は頷きながら「あのな」と、少し砕けた口調で喋りだした。

「牧野と、ちゃんと話しをしろよ」
「話し?」
「様子が、変だったろ」

その言葉に、明子は口を尖らせた。

「私が、悪いんですか」
「悪いとは言ってないだろ。話しをしろと、そう言ってんだよ」

空を睨むように前を見たまま、小林は訥々と喋り続けた。

「朝から、島野のことで不安になって、昼には大嫌いと言われて、それで見合いの話しなんて聞かされて。部長に名前を呼ばれても、気づけないほどだったんだぞ」
「やっぱり、私が悪いって話じゃないですか」

なんか納得できませんと剥れる明子に、小林のため息が聞こえた。

「なあ、牧野は自分の気持ちを、もう、お前に伝えたって言ってたぞ?」

身に覚えないかと、ため息と共に吐き出されたその言葉に、明子は虚をつかれたような顔で小林を見た。
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