リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
二十一時を過ぎて、一人、二人と残業している社員の数が減り始めてきた。
明子も腕を伸ばして体を解しながら、これを確認したら、今日はそろそろあがろうと決めたところだった。

「お先、失礼します」

背後から野木のそんな声が聞こえ振り返ると、席を立った野木の姿があった。
お疲れさまでしたと、明子も挨拶を返した。

そのままぐるりと室内を見回すと、いつの間にか、沼田と二人きりになっていた。
沼田はスティック状の栄養補助食をかじりながら、ディスプレイを眺めていた。

明子もその目を再び自分のディスプレイに戻すと、仕上げたテスト仕様に漏れがないかを確認していく。
仕事に集中している態を装うけれど、明子の頭の中は牧野のことでいっぱいだった。

秘密だよと、島野は言っていた。
牧野は鼻がいいから気をつけなさいとも。
でも、バレてしまった。
自分のうかつさから、気づかせてしまった。

これからどうしようと考えこんでいると、背後から声を掛けられた。

「あの、仕事中に、すいません。ちょっとお時間貰っていいですか?」
「どうぞ、どうぞ」

にこりと笑い木村のイスを勧める明子に、沼田は頷きながらイスを引き腰を下ろすが、なかなか話を切り出さなかった。

「どうしたの?」
「あの。ぜんぜん。仕事の話じゃないんですけど」
「うん?」

先を促す明子の目に、沼田は思い切ったように口を開いた。
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