リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「な。返事くれよ」

ややあって、静かな室内に、牧野のそんな声が響いた。
照れくさそうな顔をして振り返った牧野は、明子の顔を見て立ち上がった。

「泣くなよっ なんで、泣くんだよっ 泣くなって」

見たこともないような困り顔で、牧野はあたふたと慌てふためいていた。
日曜の朝、泣かないでくれと、か細い声で告げられたその言葉が、明子の耳に蘇った。
どうしていいか判らなくなるとそう言って、明子を見ていた牧野の顔が脳裏に浮かんだ。


(泣きやまなきゃ)
(泣いちゃ、ダメ)


そう必死に、明子は自分に言い聞かせる。
けれど、涙を止められなかった。

「こんなの……捨てちゃったら、見ないじゃないですか」

涙声で、明子はそう牧野を責め立てた。

「なんで捨てんだよっ 俺が渡したもんだぞ。捨てるはずがねえだろっ」

返されてきた、あまりにも身勝手な根拠のないむちゃくちゃなその自信に、明子は泣きながら吹き出し笑った。

「そんな俺様のくせに……、なんで、こんな判りにくい、へんなこと」
「うるせえな。いいだろっ」
「言ってくれなきゃ、判らない、ですよ」
「告って、その場で拒絶されたら、、立ち直れねえからだよっ」

バカ。バカバカバカバカバカ。
そう同じ言葉を連呼し続けて一息ついた牧野は、涙を拭っている明子の手をとって、もう一度深呼吸すると、静かな声で尋ねた。

「なあ。返事くれよ」

まっすぐに、けれど、どこか不安げに揺れている牧野の目を見つめながら、明子は決心したように口を開いた。

「昨日」

聞こえたその言葉に、牧野が不思議そうに、少しだけ首を傾げた。
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