リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
明子の耳元に、一つ、柔ら口づけた牧野は、ようやく、むくりとその体を起こした。
吐息は震え、目許に朱を散らしている明子の顔に細長い指を伸ばし顎に当てると、ゆるりと明子の顔を上げる。
牧野の視線に、明子の頬はますます赤く染まっていく。
胸は破裂してしまいそうなほど早鳴り、体は火がついたように熱に包まれていた。
そんな明子を見下ろして、まだ朱に染まったままの明子の顔を見据え、牧野は勝ち誇ったような笑みを浮かべて「判ったな」と、そう念を押した。
明子は、少しだけ、悔しそうな顔で牧野を睨みつけた。
否を言えないことを判ってて、明子に是を言わせようとする牧野を、意地悪男と詰りたくなった。


(なんか……)
(けっきょく、こっちが振り回されて、いいようにされたみたい)
(もう、判りにくいことして、面倒にしたのは、牧野さんなのに)
(ぜったい、牧野さんのせいなのに)


そう思うと、牧野の言葉に素直に頷いてしまうのが、少しだけ癪に障る。

「なんだよ、その顔は」

牧野の手が、明子の頬を軽く引っ張る。

「判りましただろ。ん?」
「はーい。わかりましたー」

少し不貞腐れ気味のその声に、牧野は明子の額を小突く。

「なんだ、その返事は」
「なんでもないですよ。ただ、今日、許して欲しかったなあって」
「あ? 図に乗るな」

ぷぅっと頬を膨らませた明子を見て、舌を打ちながら、牧野はまた明子を額をコンと小突いた。

「判りました。いいですよ。それで。仕方ないから、今度の日曜は、一人でカレーランチにしよう」

ふと、島野からのメールを思い出し、そんな思い付きをするりと口にして、つんと、明子はそっぽを向いた。
とたん「なんだっ それはっ」と、牧野は喚きだした。
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