リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「判りました。ランチにご招待してあげます。だから、明日はもう、プンプン怒らないでくださいね」

機嫌の悪い牧野さんは大変なんですよと、軽い口調で言いながら牧野を見つめる明子のその目は、口ぶりとは裏腹に真剣だった。
もう、背中を向けられたくないと、まるで縋りついてくるような明子のその眼差しに、牧野は一層その表情を和らげた。

「おう。カレーに免じてな」
「約束ですよ?」
「判ったって」
「チキンカレーで、いいですか?」
「おう。一晩寝かせたカレーって、マジで、美味えよなあ」

きひひ。日曜はカレーだ。
心の底から嬉しそうな声をあげ、肩を揺らして笑う牧野は「あとは、島野のやろうに、どう落とし前を着けさせるかだな」と、顔を顰めて腕を込んだ。
牧野のそんな不穏な言葉に、明子は携帯電話を開き、島野のメールを見せた。

「島野さんからです」

ちらりとその文面を眺めた牧野は、ふんと、ひとつ、鼻を鳴らした。

「仕方ねえな。その覚悟に免じて、拳ひとつで許してやる」

チっと、面白くなさそうに舌を鳴らして、それでも、どこかさっぱりとした清々しい顔で笑った牧野は「帰るぞ、用意してこい」と、明子に告げた。

「送るから」
「はい」
「おう。素直だな」

バスで帰るだのなんだのと言い出したら、またほっぺたを引っ張ってやるとこだったぞと、牧野はいつものように笑った。
その笑顔は、明子の心に染みていくように広がって、ほっこりとした温もりを与えてくれた。
この笑顔を無くさないでよかったと、そう思うだけで、また明子の目頭が熱くなった。
それを誤魔化すために「荷物、持ってきます」と牧野に告げた明子は、廊下に出るとロッカールームに駆け出した。






そのとき。
窓を震わすほどの大きな雷鳴が、轟いた。
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