リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
昼食を終えて、たっぷりとウォーキングを兼ねた散歩を楽しんだ明子は、タイムサービスを迎えたスーパーマーケットに、今日は最初からがっつり気合を入れて乗り込んだ。

市内の豆腐屋さんが製造元の二百グラムで八十円というおからを発見し、袋二つ分、買い物カゴに入れた。
賞味期限ぎりぎりの国産大豆の水煮も破格の特価品になっていたので、それも三つばかり、買い物カゴに放り込んで、なぜか、真夜中にインプットされてしまったグレープシードオイルも見つけて、買いこんだ。


(今日も、なかなか、収穫の多い買い物だったわね)
(ベビーリーフとか買ってきたから、さっそく、あのオイルでドレッシングを作っとみよーっと)


そんなことを考えながらホクホク顔で、肩に食い込むバックのずっしり感を堪え、頑張って階段の登り帰宅した明子は、今日の戦利品をさっさと整理して、ノートパソコンを開いた。

朝。
議事録をメールすると牧野は言ったが、昼になってもそれは送られてこなかった。
会社に催促の電話を入れるかとも考えたが、やめた。

仕事はできる。

新人のころから、仕事に対するスキルもスペックも、牧野は群を抜いていた。
長くもないが短くもない付き合いの中で、その点だけは明子も他の社員同様に、いや、それ以上に、牧野を評価していた。
天敵だろうが、宿敵だろうが、なんであろうが、仕事にだけに関して言えば、舌を巻いて認めるしかないというほどに、明子は牧野の仕事を信頼し信用している。
だからこそ判るのだ。
少なくとも、牧野自ら送ると言ったものを、うっかり失念してしまうようなことは、ぜったいにない。
それが送られてこないと言うことは、牧野は今、それすらできないような状況になっているのかもしれない。
いや、たぶん、そうだろう。
明子はそう判断し、届かなければ月曜日に客先へと向かうその車中で、沼田から話を聞き出せばいいと割り切った。


(とりあえず、もう一回、チェックしてみよう)


牧野からのメールが届いていないか。
メールソフトを立ち上げて受信ボタンをクリックしてみると、ようやく、牧野からのメールが届いた。
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