リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
祝日だった月初めの木曜日。
なぜか、小林と二人で出勤となり、それほど急ぎと思えない仕事をさせられて、その胸中ではずっと牧野のバカーっと明子は吠えていた。
一応、形の上では、休日出勤や時間外勤務は所属長の命令があって成立するものなのだが、現実、所属長に命じられてということは滅多にない。仕事の進捗状況に応じて、各自が所属長に申し出て、休日出勤や時間外勤務をしているというのが現状だ。
そのころの明子の仕事に、進捗の遅れは全くなかった。
だから、普通に休むつもりでいた。なのに、出てくれといきなり言われ、なんでですかと反発しそうだったが、上司命令だと自分に言い聞かせて出勤していた。

おそらく、あのころすでに、君島の母親が危ない状態になりつつあるということを、牧野や小林は知っていたのだろう。
今であれば、明子にもそれが判った。
だから、万が一に備えて、牧野は小林だけでなく明子も出社させたのだろう。
なにかあったらすぐに、君島のサポートができる体制を作っておきたかったに違いない。
そんなことを考えた。


(それならそうだって、言ってくれればよかったのに)
(言われなくたって、出勤したのに)
(お休みだろうと)
(深夜だろうと)
(なんだろうと)
(牧野のバカ)


そんなことを思いながら、心に浮かんだ牧野の顔にばかーっと叫んでみたけれど、あのころはそんなことすら昔のように話すことすらできないくらい、自分は牧野との距離を取っていたことに、明子は思い至った。

もう、昔のようになりたくないとそう思い、頑なまでに、明子の心は牧野を遠ざけていた。
もしも、あのころから自分と牧野の距離が今のように近づいていたら、今の状況は少し違う形になっていたのかしらと、そんな思いが明子の脳裏を巡っていた。

「原田、全然、仕事してないんですか?」

明子の沈黙をどう受け止めたのか、木村がぼそりとそう明子に尋ねた。

「うん。やっている様子は、ないかも。どうする気なんだか」
「なんで、あんなふうになっちゃったのかなあ」

ため息とともにそう吐き出した木村に、明子は幸恵のことを尋ねたみた。
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