リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
家事手伝いと言って、働きもせず、ずっと遊んで暮らしていた美咲たちが、現れた。
そんな美咲たちが、羨ましくて、羨ましくて、羨ましくて。
自分も彼女たちのようになりたくて。
彼女たちを真似て。
彼女たちを一緒に遊んで。
そうやっているうちに、ますます、幸恵は働くことがイヤになってしまったのかもしれない。
そう想像すると、ため息しかこぼれてこない。

木村の言葉を聞いて、そんなことを鬱々と考えていた明子は、夕方からずっと心にあった疑問を言葉にして、ぽつりと木村に尋ねた。

「原田さんって……、美咲さんたちと、ホントに仲がいいの?」

幸恵が一瞬見せたあの怖い顔が、明子の脳裏から消えない。
仲のいい友人なら、けっして、あんな顔はしないと明子は思う。
だから、幸恵のことがますます明子には判らなくなった。
明子のそんな言葉を受けて、木村は「仲、かあ」と呟くと、口を少しだけへの字に曲げて考える様子を見せた。

「前から、休憩所とかでは、よく喋ってました」

勢い任せでしゃべる木村にしては珍しく、言葉を選んでいるような慎重さを見せて、木村は明子の問いかけに答えた。

「そうなんだ。私、異動してくるまで、井上さんたちのことはほとんど知らなくて。だから、この間まで困った子たちだなあってくらいにしか思っていなくて、気にもしてなかったのよね。原田さんが、彼女たちとあんなふうに仲が良かったことも、まったく気づいていなかったの」

だって、彼女、今までお昼だって私たちと食べてたし。
そう言って不思議がっている明子に、木村にしては珍しく考えながら言葉を選ぶようにして喋り出した。

「んー。それは……、もしかしたら、ヒメにでも言われて、主任のことを見張っていたのかも」
「私のこと?」

なんでと驚く明子に、木村はおどけた様子で肩をすくめて笑う。

「ヒメ、ホントはウチの課に入りたかったから。だから、自分が父親の力を使っても入れなかったウチに異動してくることになった主任のことを、すっごい意識していたんですよ。課長と同期で親しかったなんてことを聞いたから、余計に」

だから、最初っから、主任のことを目の敵みたいにして、あれこれ言っていたじゃないですか。
木村にそう言われて春先に言われていた諸々の陰口をまた思い出した明子は、そんな子どもじみたやっかみに振り回されて、私はさらに肥えてしまったわけねと、肩を落とした。
木村は明子のそんな落胆には気づいていない様子で、そのまましゃべり続けている。

「それに、君島課長のところは、今年は客先に行って仕事してくることが多くなったから。午前中は、社内で仕事をしていても、午後からは客先に行っているとか。そういうことがよくあったじゃないですか。ヒメたちと一緒に昼飯を食っていると、時間までに戻ってこられないでしょ。あいつら、時間なんか気にしないから。だから、主任たちと昼飯を食べてたんじゃないですかね」
「なるほどね。一緒にランチをしていたころは、まだ仕事をちゃんとやる気持ちはあったのね」

お弁当生活に切り替えたりしないで、あのままそれまで通り一緒にいてやったら、彼女は今でもちゃんとしていたのかもしれないなあと、明子は少しばかり落ち込んだ。
しかし、木村は「どうですかねえ」と、明子に異を唱えるような口ぶりで言葉を続けた。
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