リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「野々村は、旦那はああいう大人しい男が楽でいいわよねなんて、前からそんな失礼なことを言ってたらしいから、沼田さんが出世しそうな気配がしてきたんで、しゃしゃり出てきたのかなって判るんですけど」
「そんなことを言ってたの、あの子」

明子が眉をキリキリと吊り上げて怒る様子に、木村も「そうなんですよっ」と憤った。

「ロッカールームの話しなんで、僕は直接、聞いてませんけど。ほら、女の子同士の内緒話を喋ったって、すっごい怒ったでしょ、野々村。こんな感じの話しをよくしているそうなんで、それがバレたと思って慌てたんですよ、きっと」
「あそこでなにを言っているか、判ったもんじゃないわね、あの子たち」
「教えてくれたヤツも、なんか感じ悪くてイヤって、顔をすっごいシワシワにして怒ってました。もっと、ひどいことも言っていたみたいですよ。口にしたくないって言って、それは、教えてはくれませんでしたけど。でも、僕なんか、沼田さんの話し聞いただけで、怒りがドッカーンの寸前でしたよ」

身振り手振りを交えて、やや早口でまくし立てるのは、憤っているときの木村の癖だった。
怒りを秘めているときほど、直立不動の姿勢で平坦な抑揚のない声になってしまう明子とは、正反対だった。

「でも、沼田さんが放っておけって」

自分でも興奮気味なのが判ったのか、木村は一呼吸、息を大きく吸ってから、やや落ち着いた声で続きを話しだした。

「どうせ、あんな子たち、ずっと、会社にいるはずないんだからって。下手に関わるなって。そんなことで木村が無駄に疲れる必要ないよって」
「まったくよ。その通りよ、木村くん。ここ最近の私の疲れ方、尋常じゃないから。このぷくぷくのほっぺたが、週末にはげっそりしているかもだわよ」

明子の言葉に、木村は「うひゃー、大変だー」と、仰け反り笑った。
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