リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「デートのつもりで、ライブに行くのよ。そこで、目が合うかもしれないし、声をかけられたりするかもしれないし。いろんなことをね、あれこれと妄想して行くのよ。なにか、あるかもしれないって。そんな期待を胸いっぱいに詰め込んで、キラキラでフラフラでワクワクの素敵な夢を見に行くのよ。そういう意味では、男の子より、女の子のほうが、妄想で恋愛を楽しんで遊べるのかもしれないな」
「はあ。なるほど。でも、それでも、ヒメのは酷いでしょ。虚言癖ですよ、ああなると」

妄想は判りましたけど、あれは度が過ぎますよと、木村は呆れた声で言う。

「まあね。でも、まだ自分でもウソを付いているって自覚していただけ、よかったわ。ホントに、妄想と現実がごちゃごちゃになって、幻覚だの幻聴だのなんて症状まで出ていたら、医者にみせないとマズいもの」

あの程度でよかったと言う明子に、妄想って意外と怖いこともあるんですねと、木村もしみじみと頷いた。

「うん。稀にね。そういう状態になっちゃう人も、いるらしいわよ。でも、井上さんの場合は、あのお母様と少し離れないと、こういうことをずっと繰り返しそうな気がする」
「朝、会ったんですよね、そう言えば」
「うん。すごかった。なんかね、井上さん、月曜の夜も牧野さんとデートしていたみたいなことを、あのお母様に言っていたらしいんだけど、月曜は牧野さんは徹夜で仕事していましたよって言ったら、ウチの娘がウソを言うはずないって言って、ぜんぜん信じてくれなくて」

思い出した朝のできごとに、明子は疲れがさらに増していく感覚を覚えた。思っていた以上に、朝の一件ではダメージを受けていたらしい。
木村は明子の言葉に、ぶんぶんと首を大きく縦に振って頷いた。

「判ります。今までにも、何度もそんなことを言って乗り込んできましたから。私の美咲ちゃんが、そんなことをするはずがないだの、私の美咲ちゃんが、そんなことを言うはずがないだのって」

モンスターな親って、学校だけに出没する生物ってわけじゃないんですねえとため息を吐く木村に、ホントよねえと、明子もため息をつく。

「子どものころって、現実が判らなくて、夢みたいなことを本気で話せるじゃない。例えば、大きくなったらパパと結婚するなんて言ったり。仮面ライダーになるだとか言ったり」
「ありますね」
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