リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
『なんていうか、応用力がないんだよ』
牧野は言葉を選ぶように、明子に説明していく。
『例えば、何かのマスター一覧表作らせるだろ。同じように、このマスターでも一覧表を作ってくれって言っても、マスターの名前が違う時点で、あいつの頭の中では、それはもう初めての作業になっちまうんだよ。また一から全部、同じように指示してもらわないと、なにもできなくなるんだ』
新人のころから、ずっとそうなんだ。
頭を抱えて呻いているのではないかというような雰囲気の牧野に、明子も二の句が告げられないという顔で絶句した。
(えーと、ですね)
(判らない判らないっていう、アレ)
(嫌がらせでも、なんでもなくて、本気の言葉だったの?)
(ウソでしょ?)
(マジで?)
想像もしていなかった事実に、明子は告げるべき言葉を見つけられず途方にくれるしかなかった。
『まあ、本人も、もう異動は覚悟しているだろうからな。無理ならいいさ』
「どこに異動するんですか? 今のままじゃ、営業だって厳しいですよ?」
『多分、サービス部に移ってパンチ業務だろうな』
「うわー。それって……、やってけるかな、原田さん」
『データ入力くらいできるだろ』
「そうじゃなくて。あそこって、ほぼ女性社員じゃないですか。対人関係というか、人間関係というか、けっこう、ぐちゃぐちゃしてて、それで苦労するんですよ。仕事だって一日のノルマがきっちりと決まってるし」
『それこそ、気にしたところでしょうがないだろ。異動がいやなら、しっかり仕事を覚えろって、君島さんに散々言われてるんだ、去年の暮れから』
異動した先で続くか続かないかなんてことまで、こっちが心配する義理もねえよと、ばっさりと切り捨てる牧野の言葉に、明子は小さく息を吐いた。
そこまで言われても尚、変わることができないなら、多分、もう手立てはないと、明子もやっと本心から諦めがついた。
まだ、少しだけ、もしかしたらと思う気持ちがあったけれど、一日二日、自分が見たくらいで変われるなら、とっくに変わっているはずだ。誰がって、あの君島さんがずっと面倒を見てきていたんだよと、自分を納得させて、だからもう、明日に期待するのはやめようと、明子は改めて自分に言い聞かせた。
『基本、君島さんは滅多なことじゃ、駒は手離さない。今は使い道が判らなくて持て余していても、いつか、なにかで使えることがあるかもしれないって、そう考える人だからな。その人に見限られた時点で、あいつにはもう、居場所なんてないのも同じだ。異動の辞令が出たら、辞表を出すつもりなんじゃないのか、あんがい』
「もしかしたら、それをどうにかしたくて、井上さんに泣きつくつもりで、あのグループ入ったんですかね」
ふとしたそんな思いつきを、明子はぼそりと低い声で零したが、それに対して牧野はなにも答えなかった。
牧野は言葉を選ぶように、明子に説明していく。
『例えば、何かのマスター一覧表作らせるだろ。同じように、このマスターでも一覧表を作ってくれって言っても、マスターの名前が違う時点で、あいつの頭の中では、それはもう初めての作業になっちまうんだよ。また一から全部、同じように指示してもらわないと、なにもできなくなるんだ』
新人のころから、ずっとそうなんだ。
頭を抱えて呻いているのではないかというような雰囲気の牧野に、明子も二の句が告げられないという顔で絶句した。
(えーと、ですね)
(判らない判らないっていう、アレ)
(嫌がらせでも、なんでもなくて、本気の言葉だったの?)
(ウソでしょ?)
(マジで?)
想像もしていなかった事実に、明子は告げるべき言葉を見つけられず途方にくれるしかなかった。
『まあ、本人も、もう異動は覚悟しているだろうからな。無理ならいいさ』
「どこに異動するんですか? 今のままじゃ、営業だって厳しいですよ?」
『多分、サービス部に移ってパンチ業務だろうな』
「うわー。それって……、やってけるかな、原田さん」
『データ入力くらいできるだろ』
「そうじゃなくて。あそこって、ほぼ女性社員じゃないですか。対人関係というか、人間関係というか、けっこう、ぐちゃぐちゃしてて、それで苦労するんですよ。仕事だって一日のノルマがきっちりと決まってるし」
『それこそ、気にしたところでしょうがないだろ。異動がいやなら、しっかり仕事を覚えろって、君島さんに散々言われてるんだ、去年の暮れから』
異動した先で続くか続かないかなんてことまで、こっちが心配する義理もねえよと、ばっさりと切り捨てる牧野の言葉に、明子は小さく息を吐いた。
そこまで言われても尚、変わることができないなら、多分、もう手立てはないと、明子もやっと本心から諦めがついた。
まだ、少しだけ、もしかしたらと思う気持ちがあったけれど、一日二日、自分が見たくらいで変われるなら、とっくに変わっているはずだ。誰がって、あの君島さんがずっと面倒を見てきていたんだよと、自分を納得させて、だからもう、明日に期待するのはやめようと、明子は改めて自分に言い聞かせた。
『基本、君島さんは滅多なことじゃ、駒は手離さない。今は使い道が判らなくて持て余していても、いつか、なにかで使えることがあるかもしれないって、そう考える人だからな。その人に見限られた時点で、あいつにはもう、居場所なんてないのも同じだ。異動の辞令が出たら、辞表を出すつもりなんじゃないのか、あんがい』
「もしかしたら、それをどうにかしたくて、井上さんに泣きつくつもりで、あのグループ入ったんですかね」
ふとしたそんな思いつきを、明子はぼそりと低い声で零したが、それに対して牧野はなにも答えなかった。