リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
『なあ。食うと吐くとか、ふらふらするとかないよな?』

もう、この話しは終わりだというように、牧野は明子の体調の話しに話題を戻した。
あんなヤツ、もうどうでもいいとでも言いたげな口ぶりだった。
うそつくなよという言葉を添えての牧野からの問いかけに、明子は大丈夫ですと答える。

「無理に食べようとすると、ムカムカしてきちゃいますけど、食べられるだけ食べている分には、気持ち悪いとかもないし。力が入らないとか足元ふらつくとかもないし。胃が小さくなっただけかも」
『なるか、バカ』
「だって。ダイエットしてますもん。食べてる量、前に比べたらかなり減りましたもん」
『それはな、胃が小さくなったわけじゃねえんだよ。そんなの迷信だ』
「そうなんですか?」
『例えば、毎食一〇〇〇カロリー分くらいの飯食ってたやつが、食事制限して五〇〇カロリー分くらいの飯を食うようになって、それで腹が減らないようになるのは、胃が小さくなったんじゃなくて、体がそのカロリーで生活することに慣れたってことなんだよ』

判ったかとご高説を垂れる牧野に、なるほど、そういうことなんだと明子は感心したように、へえっと言いながら小さく頷くように顔を振った。

『でも、お前の場合は食う量減らして上で、それすら食えなくなってんだろ? なんか違うだろ。おかしいって。お前、もともと、食うことが大好きなのに』
「牧野さんにだけはっ 食いしん坊って言われたくないですっ」
『食いしん坊とは言ってねえ。前からな、ちょっと気になってたんだ。お前、いきなり、めちゃくちゃ食うときとかあるだろ。四日か五日くらいのことだけどさ』

牧野のその指摘に、明子は目を見開いて丸くした。よもや、そんなことにまで牧野が気づいているとは、思わなかった。
自分ばかりが牧野を見ているようなつもりでいたけれど、あんがい、牧野も自分のことをよく見ていてくれたことに気づいて、明子の頬が少しだけ緩む。
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