リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
自分も結婚を考えていた男と、半同棲状態で一緒に生活するようになって、初めて知ったことがいろいろあった。
男性はトイレで用を足すときは、便座をあげて立ったまま使うものだと思っていたけれど、そうではない男性がいるということを教えてくれたのは、あの男だった。
セックスもそうだった。
付き合い始めたころは判らなかったが、結婚を決め彼の部屋で一緒にいる時間が増えると、普段は明子の気持ちを優先してくれる優しい彼が、自分のペースで明子を求めて独りよがりなセックスをすることが多くなった。
本当はこういう人だったのかと、内心では驚いた。
そんなふうに、一緒に寝食をともにして初めて知った事実に、自分の価値観や固定観念が覆ったことが何度かあった。だから、牧野の言う夫婦生活で知った生々しい生態というものは、明子もなんとなく理解できた。
『アレがくると、食うようになるんだ?』
ふうんと鼻を鳴らすように頷いている気配に、こんな話しをすることになることなど、まったく想定していなかったけれど、いきなり脈絡なく他の話題に変えるのも不自然だしねと、明子はぽつりぽつりとこぼすように牧野の疑問に答えた。
「正確には、始まる前です。数日だけなんですけど、無性に食べたくなるんです。お腹が空いてるってわけじゃないんですけど、食べたくてしょうがないみたいな、そんな感じで。特に甘いものなんて、いくらでも食べたくなって」
『そういうもんなんだ。へえ。そういや、……ちょうど、くる前だよな、今』
なにかを指折り確認しているような気配の牧野に、明子は声をひっくり返した。
「なんで、そんなことまで知ってるんですかっ」
ストーカーですかっ 牧野さんっ
いくらなんでも観察し過ぎだと、きゃんきゃんと吠え立てるように言い立てる明子に、牧野はうるせえなと吐き捨てた。
男性はトイレで用を足すときは、便座をあげて立ったまま使うものだと思っていたけれど、そうではない男性がいるということを教えてくれたのは、あの男だった。
セックスもそうだった。
付き合い始めたころは判らなかったが、結婚を決め彼の部屋で一緒にいる時間が増えると、普段は明子の気持ちを優先してくれる優しい彼が、自分のペースで明子を求めて独りよがりなセックスをすることが多くなった。
本当はこういう人だったのかと、内心では驚いた。
そんなふうに、一緒に寝食をともにして初めて知った事実に、自分の価値観や固定観念が覆ったことが何度かあった。だから、牧野の言う夫婦生活で知った生々しい生態というものは、明子もなんとなく理解できた。
『アレがくると、食うようになるんだ?』
ふうんと鼻を鳴らすように頷いている気配に、こんな話しをすることになることなど、まったく想定していなかったけれど、いきなり脈絡なく他の話題に変えるのも不自然だしねと、明子はぽつりぽつりとこぼすように牧野の疑問に答えた。
「正確には、始まる前です。数日だけなんですけど、無性に食べたくなるんです。お腹が空いてるってわけじゃないんですけど、食べたくてしょうがないみたいな、そんな感じで。特に甘いものなんて、いくらでも食べたくなって」
『そういうもんなんだ。へえ。そういや、……ちょうど、くる前だよな、今』
なにかを指折り確認しているような気配の牧野に、明子は声をひっくり返した。
「なんで、そんなことまで知ってるんですかっ」
ストーカーですかっ 牧野さんっ
いくらなんでも観察し過ぎだと、きゃんきゃんと吠え立てるように言い立てる明子に、牧野はうるせえなと吐き捨てた。