リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
『近いな』
「え?」
『救急車』

こちらのサイレンの音が、電話越しに牧野にも聞こえているのかなと思いつつ、明子はその言葉に「ええ」と頷いたが、不思議なことに、こちらの音を追いかけてくるように、電話越しにも救急車のサイレンの音が聞こえてくることに明子は気づいた。
もしかして、牧野は近くにいるのではないのかと、そんな疑問がむくむくと頭をもたげてきた。

「……牧野さん。今、どこにいるんですか?」

明子は窺うように、牧野に居場所を問いかけてみた。

『ん? 車の中だよ』
「その車はっ どこに止まっているかですかっ」

明子の質問の意味を理解しておきながら、しれっとした口調でそう答える牧野に、明子は焦れたような声で質問を更に砕いて尋ねた。
牧野のくすりという笑い声が、明子の耳に届く。

『銀杏。見てる。かなり葉が落ちてきたな』

明子はその言葉を最後まで聞かずに、ベランダに飛び出した。
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