リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「いいって。ユルい感じで」

そのままでいいよ。
するりと腰に手を回されて、少し意地悪そうな笑い方をしながら、明子の額に自分の額をくっつけるようにして、明子の顔を覗きこんでくる牧野に、明子の胸はドクンドクンと大きく跳ね上がり続けた。
まるで、酸素の薄い場所で呼吸困難にでもなったかのように、胸が詰まって息苦しい。

「今さら、俺相手に気取らなくてもいいだろ」

牧野の低くて甘い声がそう囁く。頬に触れる牧野の息に、明子の頬はますます火照っていく。

「だ、だって」
「大丈夫って。ぬけてる感じがかわいいって」

牧野の熱い息が頬に吹きかかるたびに、明子の体はぴくんと震える。
そんな明子を牧野は楽しそうに見つめ続け、平素と変わらぬ余裕を見せていた。

「とりあえず、ホントに元気はあるようだから、安心した」

穏やかな声で明子にそう言うと、牧野は静かに明子を腕の中から解放した。
明子はまだ幾分つんつんとした声で、上目遣いに牧野を見ながら、お茶でいいですかと尋ねた。
牧野からは、熱いのなという答えがあり、明子はお茶の用意を始める。

「やっぱり、食ってねえじゃねえか」
「それは、明日の朝ご飯ですっ」

テーブルの上のオムライスに気づいた様子の牧野のその言葉に、明子はそう言い返した。

「これ、なんだ?」

その問いかけにちらりと背後を振り返った明子は「豆腐屋さんのおからを貰ったんで、スコーンとパウンドケーキにしてみたんですよ」と、答えた。
そんな明子の目の前で、牧野はおもむろにスコーンを一つ手に取ったんかと思うと、そのまま何も言わずにかじりついた。
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