リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「お腹が空いてるなら、なにか作りますか?」

尋ねる明子にあーだのうーだのと言いながら、牧野は我が物顔で冷蔵庫を開けてジャムを探し出した。

「だから。どうして勝手に、冷蔵庫を」
「くれって言っただろ」

なにがダメだよと剥れる牧野に、どうしてこの人、はこういう一般常識が欠落しているんだろうと、明子は頭を抱えるように呻いた。

「他所の家の冷蔵庫、勝手に開けちゃダメですよ」
「もう、余所の家じゃねえし」
「なに言ってるんですかっ 牧野さんの家でもないですよっ」
「お前の家なら俺の家だろ。どこが間違ってんだよ。ぐちゃぐちゃ言ってると、今度は鼻毛描いてやるぞ、こいつに」

冷蔵庫の扉の貼り付けてある牧野の落書きが残る切り抜きを、思い切りトントンと叩くように指差してそう言う牧野に、明子はキリキリキリと、目を吊り上げた。

「そんなことしたら、二度と家にあげませんからねっ」

お弁当だって、もう絶対あげないんだからっ
地団太を踏む勢いで怒る明子など意にも介さず、判った判った、はいはいと、牧野は微塵の反省も感じられない声でそう言って、喚く明子を煩そうに眺めた。

「判ったから、なんか、皿くれよ」

ジャム瓶と食べかけの手にスコーンに、これをのせる皿をくれと要求してくる牧野に、明子は頬をぷっくりと膨らませたまま、小皿を出してテーブルに置いた。

「お茶じゃなくて、紅茶とかのほうがいいですか?」

明子の言葉に、茶でいいと即答した牧野は、渡された小皿に食べかけのスコーンと、もう一つスコーンをのせた。
嬉しそうに頬をだらしなく緩めた顔で、ジャム瓶から輪切りのオレンジと一緒にジャムを出している牧野に、明子はやれやれというような笑みを浮かべるしかなかった。
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