リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「バカっ 牧野さんのバカっ」
「ひでえな。そんな八つ当たりされてもよ」

手にしている皿をリビングのテーブルに置きながら、牧野は明子の言葉にそう言って苦笑した。
明子はそんな牧野に、当たり散らし続けた。

「来るなら来るって、電話でも、メールでも、連絡してくれれば、もっと、もっと、ちゃんとした格好、してたし、ご飯だって、ちゃんと、ちゃんと作って、もっと、もっと、ちゃんとして、」

そう言いながら、ぽろぽろと、明子の眦から涙が出てきた。
ずっと頭の中でグルグルしていたパニックが、ついに堪えきれずに涙になって爆発したような勢いだった。
明子のその涙に、牧野は慌てふためいて、明子を抱きしめるとあやしだした。

「泣くなって。悪かったよ。な? ホントに寄るつもりなかったんだって」

ただ近くで声だけ聞きたいなって、それだけだったんだって。
牧野は明子を宥めるように、泣くなよ、悪かったよとそう繰り返し、明子の後ろ髪を梳くように撫でた。

「大丈夫だって。子どもみたいで、かわいいから」
「嬉しくない」

子どもみたいって、そんなの嬉しくない。
すんと鼻を鳴らす明子に、ごめん、悪かったと、牧野は優しい声でそう囁き続けた。
暖冬と言われているけれど、十一月も半ばを過ぎた夜中ともなれば、エンジンを切った車の中は、やはりそれなりに冷え込むのだろう。
ぴたりと互いの体をくっつけ重なり合った部分から、冷たい牧野の体温がすうっと、明子の中に染み込んでくるようだった。
どこもかしこも、火がついたように熱く火照っている明子の体から、その冷たさは熱を奪い取っていってくれるようで、心地よかった。
逆に、牧野の体は、明子から移ってきた熱で、次第に温まっていくようだった。
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