リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
しばらく、明子は牧野の肩に顔を埋めるようにして、拗ねたように泣いていたが、そんな明子に、牧野はなにも言わず、ただ抱きしめて髪を梳き続けた。
牧野のその優しい手に、明子は少しずつ落ち着きを取り戻していった。
ふいに、トクントクンと早鳴っている牧野の鼓動に、明子は気がついた。
明子はゆるりと肩から顔を上げ、牧野の心臓の位置を確かめるように、ワイシャツの上から静かに牧野の胸に手を当てた。

「なんか、すごいドキドキしてる」
「当たり前だろ」

まだ涙が浮かんだままの目で牧野を見上げる明子に、牧野は「すっげえ、ドキドキしてるに決まってるだろ」と、照れたように笑った。

「だって。なにか、余裕って感じしてた」
「バカ。俺ははったりでも余裕をかまさなきゃ、ダメだろうよ。いい年したおっさんなんだから、これでも」

押しかけられたならともかく、押しかけた俺まで一緒になってワタワタできねえだろよと、牧野は苦笑いを浮かべた顔で明子の眦に残っている涙を指で掬うように拭い「だからもう、機嫌直して笑ってくれよ」と、明子の耳元で囁いた。


-けっこう、クタクタなんだ。だから、笑った顔、見せてくれよ。


ようやく、牧野のその顔に浮かぶ疲労の色に明子は気づいた。
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