リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
どこかぎこちないその笑みに、明子は牧野を手を取って握り締めた。


(大丈夫)
(なにを聞いても、聞かされても、逃げないから)
(大丈夫)


そんな思いを込めて、明子は牧野の手をきつく握り締めた。
その明子の思いが伝わったのか、牧野は小さく笑うと、明子のその手を握り返した。

「大事にしてくれたよ。親父殿とお袋殿も、ホントに、じつは俺、この人たちの息子なんじゃないかって思うくらい、可愛がってくれたし、弟も兄ちゃん兄ちゃんって懐いてさ。だからかな。新しい家でみんなで集まったら、もう、返してやらなきゃなって、そう思っちまったんだよな」
「返す?」

どういう意味かと訝しがっているような明子の声に、牧野はゆっくりと言葉を選ぶようにして、そのときの気持ちを明子に説明し始めた。

「これが、この人たちの正しい姿なんだって。そう思っちまったんだ。俺が割り込んで、この人たちから、この時間を奪って変えちまったんだって。だから、もう返してやらなきゃって。正しい家族の時間を、この人たちに返さなきゃって。なんか、そう思い込んじまったんだよな」

ふわふわとした声で、牧野はそう言葉を続け明子に聞かせた。
そのとき、牧野の胸に去来したその思いを想像し、明子の胸の目に熱いものがこみ上げてきた。
それを隠すように、明るい声で牧野に言葉をかけた。

「牧野さんらしくもないなあ。図々しいのが取り柄なのに。柄にもなくそんな遠慮して」

笑みを浮かべた顔でそう茶化す明子に、牧野は少しだけ驚いたように目を見開いて、すぐに楽しそうな声で「うるせえ」と言い返し、笑った。

「親父殿にもな、同じようなこと言われたよ。今さら、なにを遠慮なんかしてるんだって。バカだな、お前はって」

そう言って、笑われたんだと泣き出しそうな顔で続いた牧野の声は、この上なく嬉しそうだった。
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