リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「その分、私は丈夫で元気な子だったから、なんでも言いやすかったみたいで、いろいろ言われました」

子どものときのことを思い出しながら、明子は訥々と喋り続けた。

「姉の長い買い物に付き合ってイライラしてくると、嫌みを言われたり、怒鳴られたり。姉には言えないし、母は姉にべったりだったから、私にしか言えなかったんでしょうけど。私にそんな八つ当たりしないでよって、思ったこともありましたけど、私にしか吐き出せないなら仕方ないかって、黙って聞いてました」

訥々とそう語る明子に、牧野はなんだかなあと苦笑した。

「子どものころから、親にまでどっぷり甘えられてたんだな、お前」

だから、こんな強い子になっちまったのかねえと、牧野は明子の頭に手をかけて引き寄せるように近づけた。

「強い、ですか?」

まあ、牧野さんにパンチくらいは繰り出せますけど。
そう言って、握った拳を前に突き出す明子に、牧野はバカと言って楽しそうに笑う。

「強いというか、あんまり、人に寄りかかろうとしないだろ、お前」
「あー……。そう、ですね。お祖父ちゃんくらいしか、甘えられる人いなかったし。でも、お祖父ちゃんとは、一緒に暮らしているわけじゃないから、普段は甘えることもできないかったし、気がついたら、なんでも自分でやるしかないって感じで」

子どものときから、ずっと。
牧野の言葉を否定することもなく、明子はそう言って視線を下げた。

「それでも、まだ、父とはうまくいっていたほうなんですよ。子どものころは」
「それで?」
「ええ。たまに気を使ってくれましたもの。テストでいい点数を取れば、褒めてくれたり」

ふふっと笑う明子に、いや、それは、お前と牧野は二の句が告げられないように、そんな言葉を並べて目を瞬かせていた。
もっと、普通の家で普通に暮らしていたことを、牧野は疑うことなく今まで信じていたに違いないと、その顔を見て明子は感じた。
牧野がこの先を聞いてどう思うか。
それを思うと、少しだけ怖かった。
明子も、明子の家族も、牧野の目には歪んで見えるかもしれないと、そう思うと怖かった。
それでも、聞いて貰いたいと明子は思った。
牧野に知って貰いたいと、そう思った。
こんなふうに思えたのは、初めてだった。
言葉を選ぶように、明子は少しずつ父親のことを話し始める。
< 979 / 1,120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop