リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「生みの母親が、お袋殿の妹なんだ。父親は、どこの誰だかも俺は知らねえ。籍も、入ってなかったらしいからな」

訥々と、懐かしい昔話でもするように喋りだした牧野が、また明子の胸に額を押し付けるようにして下を向いた。
明子はその髪を梳くように撫でる。

「七つまで、その母親と暮らしてた。あんまり、いい母親じゃなくてな。よく殴られたし、蹴られたし。飯もロクに食わせてくれなかった」

だから、俺、食いしん坊なんだ、きっと。
かすかな笑い交じりの声で、自分のことを茶化すようにそう言う牧野に「じゃあ、私が沢山、ご飯を作ってあげますよ」と、明子は明るい声で答えた。

一瞬、牧野は息を詰めて固まり、やがて、楽しそうにくすくすと笑うのが判った。

なにかに怯えるように震えていた肩が、穏やかになっていく。

「ときどき、男ができて。そいつと一緒に暮らすようになると、少しは機嫌がよくなってくれるんだけど、連れてくる男が、これまた、ロクなヤツじゃなくてな」

やや嫌悪混じりの牧野の声から、それがどれだけ酷い男たちだったのか、明子にも伝わってきた。

「ロクに仕事もしてなくて、スナックで働いていた母親のわずかな稼ぎを、当てにしているようなのばっかりで。生活が苦しくなると、母親と男と二人で、よく俺のことを殴ったり、蹴ったりしてきたな」

よくこの綺麗な顔のまま、五体満足で生きてこられたなって不思議なくらいだったよ。
淡々と、まるで仕事の報告でもするような口ぶりで喋り続ける牧野の髪を、明子はずっと優しく梳くように撫で続けた。
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