リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「そこは素直に、はいと言え」
「はーい」

間延びした返事に、こいつめと牧野は明子の鼻の頭を指で弾いた。

「なれるよ。お前といると楽しいぞ、俺は」

お前は、楽しくないか?
明子の目を覗き込むように見つめてそう尋ねる牧野に、明子は楽しいかなと考え込む素振りを見せた。

「なんだよ。かなって言うのは。このやろ」

また明子の頬を抓もうと伸ばしてきた牧野の手から、明子を頬を死守する。

「だって、牧野さん意地悪だし、口悪いし、スパルタだし、俺様だし、食いしん坊だし。そんな人なのに、モテモテで、お嫁さんに立候補してくる人が盛り沢山で面倒だし」

今のところ、大変なことのほうが多いんですもん。
つんと拗ねたように明子にそう言われてしまうと、さすがの牧野も苦笑するしかなかった。

「モテモテは俺の責任か? つうか。そんなモテてねえし」
「毎年、チョコレートを山ほど貰ってるくせに」
「あんなもの、ただのイベントだろ」

去年は島野さんに負けたしなと、ゲーム感覚で割り切って楽しいでいるようなその言い様に、じつはこういう人だったのかと明子はがくりと項垂れた。


(いや、確かにね。俺様だけど)
(思っていた以上にさ、遊び慣れしてる人だったわ、ホントに)
(じつは、ある意味、表の顔しか見てなかったわね。あたしも)
(ほかの女の子たちと一緒で)


あんがい、誰よりも牧野に夢を見ていたのは自分だったのかもしれない。そう思うと、自分に対して苦笑が浮かんだ。
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