リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「島野さんから、メールきたんですよ。総務あたりで、さっそく、ウワサになってるみたいだよって。覚悟しといたほうがいいからって。そんなこんなで、これから私は大変なんですからね、もう」

笑い事じゃないんですよ、ホントはと、つんと口を尖らせる明子に「そんな奴らは、このたくましい足で蹴散らしてこい」と、牧野は笑った。

「たくましい足って、ひどいっ」
「いいじゃねえか、自分でちゃんと立ってる足。大人の証だ」
「なんか、問題をすり替えらている気分です。それに、蹴散らせって簡単に言いますけどね。牧野さんが追い払ってくださいよ」
「俺が蹴散らしてきて、いろいろ角が立っちまったら、困るだろよ。せっかくのチョコが、貰えなくなるじゃねえか」
「ひどいっ」

私だって、角が立つと困るのにっ
ポコポコポコと、牧野の背中に拳を振り下ろして抗議する明子を、牧野はただ楽しそうに笑って見つめるだけだった。

「今朝だって大変だったのに。牧野さんのせいでっ」

ものすっごいモンスター、出現でしたよっ
今日のことをこの場で正座させて、とくとくと語り聞かせてやりたいと怒る明子に、牧野も盛大に息を吐いて疲れたような顔になった。

「俺もビックリだ。朝の一件、小林さんから聞いてうんざりしてたら、常務からいきなり電話で、訳の判らねえことウダウダ聞かれて。最後にゃ、あの母親が出てきて喚き出すし。勘弁しろだったよ」

仕事中だっていうのにとぼやく牧野に、明子も負けていなかった。

「勘弁してはこっちの台詞ですよ。もう。母娘揃って人をうそつき呼ばわりして、恥知らずだのなんだの罵られて。なんで、そんな目に合わなきゃいけないんですかっ」

もう、いい加減にしてくださいよと剥れる明子に、悪かったよと言いながらも、俺も被害者なんだぞと牧野のぼやきが続いた。
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