リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「なんか、ここ半年くらいは、かなりの頻度でデートしてるらしいぞ、俺。この間の土曜はお泊りデートだとよ」

呻くそうにそうこぼす牧野に「それはそれは楽しい夜でしたね」と、明子は茶化し混じりに笑った。

「ウチの玄関先で、誰かさんは寝ていたような気がしたんですけど。ちゃっかり、若いお嬢様とのお泊りデートもしていた牧野さんも、どこかにいたんですねえ」
「あのな」
「いつの間に、分身の術なんて習得したんですか。できたら、そういうのは仕事でのみ活用してください」
「まったくだよなあ。俺があと二人、三人いてくれたら、こんな仕事、チャッチャカ片付くのにって思うときに、使えねえかな、その術」

小杉の魔法でどうにかならねえかと、むしろ自体を面白がるようにそう言う牧野に「少し反省してください」と、明子は拳骨をこつんと落とした。

「なにを反省しろってんだよ」
「なんで、もっと早くちゃんとしなかったんですか。あんな状態になるまでほったらかして」
「どうにもならねえから、どうにかしてくれって、アメリカにいるバカに言ったんだよ」
「それで?」
「帰ったらどうにかするから、適当にあしらっとけって。それで放っておいたら、とんでもねえ暴走しているし」

俺だって困ってんだからなと、牧野は拗ねたように明子にそう反論した。

「母親は娘の嘘を丸呑みして、近々結納の挨拶に来てくれるものだと信じていたのにって、泣くわ、喚くわ。常務まで、改めて真剣に考えてもらえないかだのなんだの説得し始めるわで。一時間だぞ、一時間。勘弁してくれだろ」
「なにを改めて考えてくれと」
「娘との結婚だとよ。さすがに俺もブチ切れて、俺は近々、小杉と所帯を持つことになってるから諦めてくれって言っちまったよ」

それは、ご愁傷様ですと言い掛けている途中で、さらりと落とされた爆弾発言に、明子は息を止めて固まった。
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