リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「……、は?」

やや間を空けて、牧野の言葉を噛み砕いて理解した様子の明子は、これでもかと言うくらい目を見開いた。

「事後報告で悪いけどな。うん。とりあえず、そう言っちまったから。よろしく」

片頬ににやっという笑みを浮かべて、事のついでとばかりに報告してきたような牧野の顔を見て、明子の怒りにボンっと火がつき「調子に乗るなっ」と、その頭をポカポカと叩いた。

「バカっ バカっ バカっ 牧野さんのバカっ」

なんで断りもなくそういう暴走をするんですかっと怒る明子に「いいじゃねえか、ウソじゃねえし」と、牧野はなにが悪いんだというように口を尖らせた。

「君島さんにもそう唆されたんだ。さっさと結婚しちまえって。女の体にゃ、いろいろと時間的な制約があるんだとさ」

俺にはイマイチ、ピンとこないけど、そう言われたんだと言う牧野に「まあ……、それは……、そうですけどね」と、明子は不承不承ながら頷いた。

「妊娠とか出産とか考えるとですね、そりゃ、そうなんですけどね」

だからって、まだデートすらしたことないのにぃっと、拗ねたように唇を尖らせて不貞腐れる明子に「俺も、同じこと君島さんに言って笑われた」と、牧野は教えた。

「そんなもん、結婚してからしろだとさ」

目から鱗の発想だったよと笑う牧野に、なんで、そんな入れ知恵をしたんですか、君島さんっと明子は胸中で吼えた。

「とりあえず、そう言うことだから。もし、なにか聞かれたら口裏をあせてくれ。頼む」
「口裏って」

明子はぐったりとした様子で肩を落とした。


(そりゃあ、もう、逃げも隠れもしないって、覚悟はしたけどさあ)
(なんで、いきなりそうなるかなあ)


なにもかもが牧野のペースで進んでいくこの事態に、おまけとばかりに、明子は牧野の頭をコツンと小突いた。
< 993 / 1,120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop