リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「お前といると、楽なんだ。牧野の家にいるときみたいに、普通にしていられる」
穏やかな声でそう言われて、牧野を叩いていた手を、明子は止めた。
見下ろす位置にある牧野の顔を、静かに見つめて言葉の続きを待った。
「前のかみさんは……、ダメだった。いつも仮面をつけて、あいつが望む理想の王子様を演じていなきゃならなくて。家に居ても寛げなくて、家にいる時間が、だんだん、辛くなってきた」
「仮面なんかつけてるからですよ。おばかさんなんだから」
顔だけはいいんだから、仮面なんていらないのにと、明子はばかですねと、軽い口調で牧野を笑う。
俺にそんなこと言える女はお前くらいだよと、牧野は目を細めて、ただただ楽しそうに明子を見上げ続けていた。
「一度、大きな声を出したら、子どもみたいに泣かれちまってさ。親にも兄弟にも怒鳴られたことなんてなかったから、驚いたらしい。それから、喋る声にすら気を配らなきゃならなくなっちまった」
「牧野さんの声、大きいんですもん。私だって、怒鳴られるのいやですよ」
「でも、メソメソ泣いたりしないだろ、お前。このやろって、拳を振り上げて向かってくるじゃないか」
くすくすと笑いながらの牧野の言葉に、明子は眉をキリキリと吊り上げた。
牧野が泣くなと言うから泣けなかっただけなのにと、そんな怒りがふつふつと沸いてきた。
「これからは泣いてやるっ 牧野さんがキュウキュウ困っちゃうくらい、泣いてやるっ」
そう言ってべーっと舌を出す明子を、牧野は変わらず楽しそうに見つめていた。
「養子のことも、母親のことも、なにも話せなかった、あいつには。言ったら潰れちまいそうで、話せなかった。お前には、こんなふうにちゃんと、話せるのに。あいつにはなに一つ、話せなかった」
牧野は静かの声でそう言って、明子の頬を撫でた。
穏やかな声でそう言われて、牧野を叩いていた手を、明子は止めた。
見下ろす位置にある牧野の顔を、静かに見つめて言葉の続きを待った。
「前のかみさんは……、ダメだった。いつも仮面をつけて、あいつが望む理想の王子様を演じていなきゃならなくて。家に居ても寛げなくて、家にいる時間が、だんだん、辛くなってきた」
「仮面なんかつけてるからですよ。おばかさんなんだから」
顔だけはいいんだから、仮面なんていらないのにと、明子はばかですねと、軽い口調で牧野を笑う。
俺にそんなこと言える女はお前くらいだよと、牧野は目を細めて、ただただ楽しそうに明子を見上げ続けていた。
「一度、大きな声を出したら、子どもみたいに泣かれちまってさ。親にも兄弟にも怒鳴られたことなんてなかったから、驚いたらしい。それから、喋る声にすら気を配らなきゃならなくなっちまった」
「牧野さんの声、大きいんですもん。私だって、怒鳴られるのいやですよ」
「でも、メソメソ泣いたりしないだろ、お前。このやろって、拳を振り上げて向かってくるじゃないか」
くすくすと笑いながらの牧野の言葉に、明子は眉をキリキリと吊り上げた。
牧野が泣くなと言うから泣けなかっただけなのにと、そんな怒りがふつふつと沸いてきた。
「これからは泣いてやるっ 牧野さんがキュウキュウ困っちゃうくらい、泣いてやるっ」
そう言ってべーっと舌を出す明子を、牧野は変わらず楽しそうに見つめていた。
「養子のことも、母親のことも、なにも話せなかった、あいつには。言ったら潰れちまいそうで、話せなかった。お前には、こんなふうにちゃんと、話せるのに。あいつにはなに一つ、話せなかった」
牧野は静かの声でそう言って、明子の頬を撫でた。