リスタート ～最後の恋を始めよう～　【前編】
「離婚の話ししていたとき、どうにかして、俺の昔のことを調べてきたようでな。騙されたって詰られた。そんな育ちの人だから、人を平気で怒鳴るんだって。怒鳴られて怖かった、怖かったって、何度も言われて」

結構、ショックだったな。
そう告げて、少しだけ目を伏せて自嘲気味の乾いた笑みを浮かべる牧野を見て、明子はその髪を優しく撫でた。

「よく虐待を受けて育った子どもは、自分も大人になったら同じことするっていうだろ。怖がらせるつもりなんてなかったのに、そんなに怖かったのかなって。だんだん、俺もあいつらと同じになっちまうのかなって」

考えるほど怖かった。
落ち込んでいるようなその声を、明子は明るい笑い声で吹き飛ばした。

「地声が大きいと損ですねー。ちょっと大きな声だしただけでも、怒鳴っているように思われちゃって」
「そんなデカくねえだろ」

からかうようにそんなことを言う明子に、牧野はむすっとした声で抗議した。

「大きいですよ」
「そんなこと、ねえと思うんだけどなあ」

納得いかないというように、明子に頭をぐりぐりと押し付けて拗ねる牧野に、明子はくすりと忍び笑いを零した。

「大丈夫ですよ。牧野さんはそんな大人にはなりませんよ」

穏やかな声で諭すように、明子はそう牧野に言い聞かせた。

「そうかな」
「なりません」

不安がる声に、大丈夫ですと、きっぱりとした口調でそう告げた明子に、牧野はようやく顔を上げた。
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