リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「どうして、あのころの俺たちは、こうなふうになれなかっんだろうな」

昔を思い出すような口ぶりで、牧野は訥々と胸の中に秘めてあった思いを言葉にしていく。

「めちゃくちゃ遠回りして。やっぱり、お前を諦められないって、そう気づいて。だから、必死になってお前のことを取り戻した。離れた時間を悔やむ気持ちもあるけど、でも、離れたあの時間は、こうなるために必要だったのかなって思う自分もいて。人の縁って不思議だなって」

そう思ってなと言う牧野に、明子も「そうですね」と、小さく頷いた。

きっと、昔の自分には牧野の内側に、こんなふうに入っていくことはできなかったと思った。
きっと、昔の自分には自分の内側を、こんなふうに見せるようなことはできなかったと思った。

お互い、心の中に隠した秘密を打ち明けあうこともできず、苦しむ相手にどうしていいのかも判らずに、胸に掬うこの孤独に苛まれ続け、すれ違ってばかりいたかもしれないと、明子もそう思った。

「昔だったら、牧野さんに、こんなふうに寄りかかられたら、きっと支えきれなくて、私も潰れちゃいましたもん、きっと。ふふふ。たくましい足になったから、今ならどんとこいですよ」

楽しそうな声でそんなことを言う明子に、牧野は「バカ」と言いながら明子を腕を取り、自分の腕の中に引き寄せた。
突然のことに、息をつめて固まってしまった明子の額に、牧野は唇を落とし、囁くように呟いた。

「今日、泊まってく。いいだろ?」
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