リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「キレイに片付いてるじゃねえか。なにをそんなにワタワタする必要があるんだよ」

一緒に浴室を覗き込んだ牧野は、問題なしとそう断言して、まだどうしようかと戸惑っている明子の手を掴むと、半ば引きづるようにしてリビングに戻った。

「寝床は、ソファー貸してくれりゃいいよ」

明子の動揺振りなど意にも介さず、さばさばとした口調でそういう牧野に、明子は妙にどきまぎと胸を高鳴らせて黙り込んだ。


(えーと。えー……)
(ここは、もしかして、一緒のベットを勧めるべき?)
(でも、でも、しかしですよ)
(それこそ、心の準備がってものがぁぁぁ)


こんな場合の正解を導き出せずに、どうしたものかと迷い悩んで言い淀んでいる明子に、牧野はくすりと笑いをこぼした。

「なんで、そこでオタオタするんだよ、お前は」
「だ、だって」
「いっそ、色っぽく俺を誘って、逆に俺をワタワタさせてみろってんだ」
「なに言ってるんですかっ そんなことしたら、牧野さんの思う壺じゃないですか」

騙されないんだからと言うように、頬を膨らませて上目遣いで牧野を睨む明子に、牧野は大正解と笑って明子の額を指で小突いた。

「マジで。今夜はここでいいって。お楽しみは、来週までお預けだ」

覚悟しとけよと明子の耳元で甘く囁き、意味ありげににたりと笑って明子を熱っぽい視線で見つめる牧野の視線に、明子の頬がまた赤く染まっていった。
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