キスはおとなの呼吸のように【完】
「あわただしくてすまないが、これで失礼するよ」

そういいながら荷物をまとめ、ばたばたと玄関にむかう。
わたしはソファから腰を浮かせた。

「駅までの道、わかりますか」

反射的にわたしは事務的な確認をしてしまう。
こんな会話をするまえに、きちんと文句をいわなければならないはずなのに。

「ああ。営業を長くやっているからな。どんな街でも、そとにでたときの景色と雰囲気で、駅の方角はだいたいわかる……」

会話の途中で奥さんと電話がつながったらしい。
わたしにではなく電話のむこうにむかっていう。
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