Sugarless -君だけがいた時間-
「いや、泊まらないし」
「でも俺、もうその気だよ。ガマンできないって」
数分前までキザったらしく私を口説いていたその口で、よくも生理現象の話なんかできるもんだと思う。
私は青年Aを振りきって、終電前の駅に駆けこんだ。
トイレの鏡の前でファンデーションを塗り直し、最近買ったばかりの口紅を塗った。
今日はピンク。明日は赤。私は毎日、唇の色を変える。
だけどいくら口紅だけ塗り替えても、私は何も変わらない。私の顔が、明るく輝いたり、醜く歪んだり、することもない。
いっそ取り返しのつかないような黒を、この唇に塗りたくってやろうか。
だけどそんなことをしても、やっぱり私は私なんだろう。