記憶混濁*甘い痛み*2
和音はビクッとしてその場に止まり、しかし、返事を返す事が出来ない。
すると友梨は、立ち上がって和音の正面に立つと。
「条野さんの大切な方の為に、私からも祈りを…」
と、言って、和音の手を取り自分の両手で包み込むと、また静かに瞳を閉じた。
その祈りの姿は美しく清廉で、和音は切なさに唇を噛んだ。
……今、抱きしめて
全てを取り戻す事が出来ないのだろうか……?
神よ……こんな風にオレと友梨を合わせる事に、一体何の意味がある?
「……条野さんに祈られる方は、幸せですわ」
瞳を開くと、友梨はそう言って和音に悲しそうな微笑みを見せた。
「条野さんの想いが……私にまで伝わってくる……とても、愛してらしたのね……ゆうり、さん?」
「……」
友梨の瞳に、言葉に、情けない事に一度は止めた涙が溢れ出した。
和音は空いた左手で顔を隠し、平常心に戻ろうとする。
けれど。
唇から、出た言葉は。
「ええ。愛してました。彼女が愛してやまないキリストよりも、オレの方が彼女を愛している自信があった。けれど……その驕りがキリストの怒りに触れ、オレは命より大切な……妻と子を奪われた」
と、言う告白だった。